◆ 勝負における損得の判断について  ◆

競技スポーツにおいて選手は常にその行動が勝敗に有利か、不利か判断することが求められる
いわゆる勝負カンのいいプレーヤーはそれらの判断を無意識、自動的、瞬時に行い、かつそれを行動に移すことができる。そういう意味ではギャンブラー的素養が求められる部分もあるといえる。
今回はギャンブルを行っている被検者の脳の活動状態、およびそれが選択行動に与える影響について調べた研究を紹介しつつ、その神経的メカニズムについて探ってみる。

ギャンブルゲームに参加中の12名の健常な成人男女の頭皮上に配置された42個の電極から脳波を測定し、得をした時(gain時)、損をした時(loss時)に特有な脳の活動について調べた。
被検者はモニター上に「25」と「5」の二つの数字が現れた瞬間にどちらかを選択する。その1秒後にそれぞれの文字が「緑」あるいは「赤」に変わり、緑の場合は数字の数だけ実際にお金がもらえ(gain)、赤の場合はその数字のお金を支払わねばならない(loss)というのがゲームの内容である。

まずは2つの数字がそれぞれ緑か赤で振り分けられるパターンで行ったところ、loss時にのみ、色呈示(つまり損得がわかった瞬間)から約0.2秒後に前頭葉のある特定の部位に反応が見られることがわかった。
これがその後の選択行動にも影響を与えていると考えられる。
次に行ったのは、両方の数字が同じ色に変化するパターンである。例えば、緑に変化した場合はどちらを選んでいてもお金はもらえることになる。ただしもし「5」のほうを選んでいたら、お金をもらえるという意味で損はしていないが、もう一方を選んでいれば25のお金をもらえていたので正しい選択ではなかったといえる。赤に変化した場合は逆に「5」を選んでも損はするのだが選択としては正しかったことになる。
脳波を調べると両方赤の時は正誤に関わらず前頭葉に特定の反応があり、両方緑の時には反応が確認されなかった。つまり「正誤」とは無関係に「損得」特に「損」に特有に反応する前頭葉の部位があり、それがその後の選択行動に影響を与えている可能性があることが示唆される結果となった。

例えば、野球で打者がヒットを打って2塁へ行くかどうかを判断するケースを考えてみる。結果として悠々進塁が可能であったにも関わらず、1塁で止まってしまったとしたら、これは「誤った」判断をしたことになる。しかし、ヒットを打って出塁したという「得」自体は得ている(両方緑で「5」を選んだ状況と同じ)。
進塁への挑戦にはどうしても「損」がつきまとい、これは脳に対するインパクトが強いため、選択を躊躇してしまうという仕組みになっているといえる。「損」に敏感に反応しそれを避けたくなる脳内メカニズムが存在することを理解し、その上で「正誤」の判断を行えるようになるのが勝負ごとにおける選択行動においては重要であるといえるだろう。

W. J. Gehring et al. :The medial frontal cortex and the rapid processing of monetary gains and losses . Science, 295, 2279-2282, 2002.

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