◆ ポーカーフェイスは有効か?  ◆

一般に情動は理性的な判断の阻害要因になるとされている。
スポーツの現場においても感情的になって冷静な判断ができなくなり、ゲームを不利にしてしまうというケースはよく見られる。どんな状況でも冷静さを失わず状況判断する「ポーカーフェイス」はいわば試合巧者の必要条件になっているといえるかもしれない

一方、神経科医のダマシオ博士の「推論と意思決定には情動(およびそれに付随する身体的反応)が重要な役割を果たす」という仮説が近年注目を浴びている。
今回はこれまでの常識とは一見逆行するようなこの仮説を検証した彼の研究を紹介したい。

理性的推論のパフォーマンスを調べるために、「+50ドル」「+100ドル」「−500ドル」などと記入されたカードを4つの山に分けて、いかに早く有利なカードがたくさん入っている山を探し出すかというギャンブルゲームを行った。
対象は情動に関与するとされている大脳辺縁系に損傷を受けた患者6名と健常者10名で、ゲーム進行中の情動変化を見るために皮膚の発汗反応を測定した。
結果、損傷患者は健常者に比べて有利な山を探し出すのに時間がかかり、かつゲーム進行中の発汗反応も極めて少ないということが判明した。また、健常者においてはゲーム性を理解できていない初期の段階でも不利なカードの山を引く時には特に発汗反応が増大するという傾向がみられた
これは情動変化(および付随する身体的反応)が理性的判断に先行して起こっており、それを阻害するというよりはむしろ重要な役割を果たしている可能性を示唆するものであり、これまでの常識にはなかった発想である

「熱くなってしまえば、まともな判断はできない」というのはスポーツの現場のみならずわれわれが日常的に実感していることでそれは間違いではないだろう。
しかし、理性を保とうとして感情変化を抑圧するような態度をとること(例えば無理にポーカーフェイスを装ったりすること)は逆効果となりえるということにも留意しておく必要があるとはいえないだろうか。

Antoine Bechara et al.: Deciding advantageously before knowing the advantageous strategy. Science. 275, 1293-1295, 1997.

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