◆ 速く動けば筋肉の感覚は鈍る?  ◆

我々は眼を閉じた状態でも四肢の相互の位置関係や関節の動きを認識できる。これは固有感覚とよばれ、主として筋、腱、関節に存在する感覚受容器を通して知覚される。運動を行っている時にいま自分がどのような姿勢、フォームをとっているかを正しく認識するうえで、これらの感覚受容器が重要な役割を果たしていると考えられる。たとえば走動作における「ハムストリング(大腿四頭筋いわゆる前腿の筋肉より意識しづらいとされる)の意識」という課題への対応能力には、これらの感覚受容器の感度が関与していると考えられる。

ここでは9名の健常者(男7女2、26-50才)を対象として様々な条件で手首の運動(背屈、掌屈の繰り返し)を行った際の尺側手根伸筋(手を尺骨側へ曲げる筋)の経皮的電気刺激に対する感覚受容器の感度について、検証した。運動の条件は、@随意(高速):メトロノームの音にあわせて1秒間に3回の速さで手首の運動を繰り返す、A随意(低速):音に合わせて1秒間に1あるいは1.5回の速さで運動を繰り返す、B受動(高速):1秒間に3回の速さで手首を屈伸させるモーター付機器により受動的運動を繰り返す、および C安静、の4種類である。運動中にランダムに入れられた刺激に対する感度(刺激を知覚できたか否か)は被検者の自己申告により測定された。
実験の結果、刺激に対する感度は随意(低速)および受動(高速)時は安静時と有意差が見られなかったが、随意(高速)時は安静時に比べて有意に感度が鈍った(37%まで減少)。

運動のパフォーマンスを向上させるためには筋力・持久力アップに加えて合理的なフォームの習得が重要である。「筋肉をリラックスさせる」、「深いところにある筋肉を意識する」、「丹田を意識する」などの課題が出されることからもわかるように、フォーム矯正は自分の筋肉に対する感受性を高めた状態で行うことが重要である。
速い動作を行うと感度が鈍る」という今回の実験結果から判断すると「フォーム矯正はできるだけゆっくりした動作で行うことが重要である」といえるだろう。ヨガや外気功などの東洋的身体訓練は「できるだけゆっくりした動作」で行うように指導されるが、これらは深部にある筋感覚を認識しそれを動作のなかで使いこなすための有効な方法論であるといえるだろう。

D.F. Collins et al. : Muscular sense is attenuated when humans move.
J. Physiol. 508.2. 635-643. 1998

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