テニス、バドミントンなどのラケットスポーツにおいて初心者が最初につきあたる壁がバックハンドである(最初のうちは空振りも多い)。ある程度の経験者にあってもフォアハンドに比べると微細なコントロールが可能になる域に達するにはそれなりに時間がかかる。
肩関節の構造上フォアハンドのほうがスムースに動きやすいというメカニカルな要因もあるが、それとは別に正中面に対してラケットを持っている手とは逆側(右利きの場合は左視野側)の空間でボールを捉えることが困難である、という認知上の問題もあると思われる。
今回は腕を交差させて逆視野側にもってくると、交差させなかったときに比べて手の感覚が鈍るかどうかを検証するという内容の研究を紹介する。
20名の被検者に対して両手それぞれに時間をずらして電気刺激を加えてどちらの手に先に刺激が加えられたかを答えさせるというタスクを、「手を交差させてない状況」、「手を交差させた状況」それぞれのパターンで行なわせた。腕非交差の状況では刺激間隔が70msまでなら80%以上の割合で正確な判断が可能であったが、腕交差の状況では刺激間隔が200ms以下になると逆の(不正確な)判断をすることが多くなった。また腕交差の状況では腕非交差に比べて反応時間が約200ms長くなるという結果も得られた。
以上より手は逆視野側にあるとその感覚があいまいになる傾向があるということが判明した。さらに追加実験で両手それぞれに握った棒の先を刺激してその刺激順序を当てさせるというタスクを行わせたところ、腕は非交差のままであるが棒をクロスさせた状況において、棒をクロスさせない状況よりもパフォーマンスが低くなるという結果が得られた。
つまり道具(棒あるいはラケット)を使用している状況では手がある位置に関わらず、刺激が与えられる場所(棒の先、あるいはラケットの場合はガットの部分)がどちらの視野空間にあるかが認知パフォーマンスに影響を与えているといえる。
逆視野内において空間認知のパフォーマンスが劣化するという現象があることが明らかにされたが、問題は「ではそれをどのようにして(学習)改善させることができるか?」である。そのためには空間認知に関する脳内メカニズムのさらなる研究が必要となるであろう。
S. Yamamoto et al.: Reversal of subjective temporal order due to arm
crossing. Nature neuroscience 4, 7, 759-765, 2001